相手を無責任と決めつけない原発論争が必要だ

小泉元首相による原発即ゼロ主張によって、自民党圧勝以後の原発推進派優位な状況から、脱原発派と原発推進派との間の社会的力のバランスが平衡してきたように感じます。現状では両派とも相手の主張が無責任だと決めつける傾向が強く、落ち着いた論争になっていません。
複雑な今の時代の重要問題は一筋縄での正論だけでは解決できません。○と×の間にある○に近い△を探して、多くの国民が納得できる別解にたどり着けるよう、冷静に議論しなければいけないと思います。

●11月13日毎日新聞社説「首相は耳傾け決断を」のポイント

・「総理のもつ大きな権力を多くの国民が協力できる壮大で夢のある事業に使ってほしい」。小泉流の主張には説得力があった。

・政治で一番大事なのは方針を出すこと。そうすれば必ず知恵がでてくる。オイルショックがあれば環境技術で世界をリードするなど、解決する技術や方法が生み出されてきた。

・本気でイノベーションを起こそうと思うなら「原発に頼らない」という大方針こそ有効だ。「いますぐ原発ゼロ実現を」という踏み込んだ主張もそうした点で理解できる。

・大震災と原発事故で、自然の脅威を知り、原発技術への信頼が失われた日本で、最終処分場選定が非常に困難であることは確かだ。それがわかっていて核のゴミを増やしていくことの無責任さを考えないわけにはいかない。


●11月14日産経新聞主張「原発即ゼロは無責任だ」のポイント
 
・最終処分場の候補地選びは反対運動もあって遅れ気味だ。内閣府世論調査では8割が処分地決定の必要性を認めたが、自分の市町村や近隣への設置となると同じく8割が反対した。それほど機微な要素がある。安易な批判は遅滞を招く。

核燃料サイクル中止の提案はまずい。非核保有国のなかで再処理を認められているのは日本だけだ。日米関係や国際情勢とも齟齬を来す。

原発即時ゼロの道を歩めば一挙に廃炉のコストが膨らみ、再生可能エネルギー開発に回す余力も消える。

・エネルギー資源最貧国に等しい日本が経済発展を続けるには、安定供給を可能にする原子力の利用が不可欠であることは自明だろう。

・日本のエネルギー比率をまだ定めていない安倍政権も、小泉発言に惑わされることなく、全原発の早期再稼働を即決してもらいたい。



<所感>

・両論を並べて眺めると、それぞれの立場の視点や前提が異なることに気がつきます。

・産経の主張は経済成長重視の視点です。またその前提は今までの基盤の機能不全への評価が低いようで、今までの基盤を安易に壊すのは危険だし、コストがかかりすぎるという認識です。

・毎日社説は将来に視点を向けています。その前提として現状を支える基盤の行き詰まりの認識が厳しいようです。

・「自然の脅威を知り、原発技術への信頼が失われた日本で、最終処分場選定が非常に困難であることは確かだ」という認識をもう一歩進めて、もはや日本では不可能であるという認識になれば、すぐに具体案を出せなくてもイノベーションの成功による未来に賭けるという毎日の発想が合理的に思われます。

・他方、失われた原発技術の再構築によって信頼回復が可能という前提に立てば、すぐに具体案をだせる道を歩むのが安全という産経流の発想になります。

・どうやら脱原発派と原発推進派の対立の前提には、原発技術への信頼度の違いがあるようです。ここで取り上げる原発技術というものは、設備や機器の運用にとどまらず、原発運用に関連する社会的な側面を含んだ総合的な技術への信頼度だと思われます。

・技術というものは失敗を重ねて進化するものですが、失敗の影響度が桁違いの原子力技術をどう判断するかによって結論が変わると思います。

・ここまで整理して、小生の感覚としては毎日の主張に共感を抱きます。ただし原発技術に関する知識は素人ですので、説得力のある見解があれば素直に聞き入れる姿勢は持ち続けます。