マズロー欲求五段階説への新解釈に感銘する

 マズローの欲求五段階説とは「人間の欲求は階層構造的に存在していて、適当な時期に適当な程度満たされると、欲求の段階・焦点が、生理的欲求から始まって安定・安全への欲求、所属と愛への欲求、承認欲求、自己実現の欲求と5つの段階を経ながら上がっていく」という理論です。
 この理論は1960年代に確立されて、アメリカの人間性心理学やセラピーの世界では常識となっていますが、経営学看護学でも活用されています。また、人生を考えるときにも役に立つ枠組みとして多くの人に利用されているようです。

インターネットの情報サーフィンをしていて、聖路加看護大学紀要No.35に「マズローの基本的欲求の階層図への原点からの新解釈(広瀬清人・菱沼典子、印東桂子共著)」を発見しました。読んだところ大いに感銘しましたので、A4で8頁にわたる論文の結論部分のポイントを記録しておきます。

◇(常識的?解釈と異なる)マズローの真意:原点からの新解釈

マズローの主張

・より低次の欲求は、次の(高次の)欲求が現れる前に100%満たされなければならないと考えるのは誤っている。

・欲求の階層図における生理的欲求、安全欲求、所属と愛情欲求、尊重欲求などの区分はそれぞれ質的相違をあらわすものではなく、それほど明確な区分ではない。

・生理的欲求は85%、安全の欲求は70%、愛の欲求は50%、自尊心の欲求は40%、自己実現の欲求は10%が充足されているのが普通人間ではないか。(4つの階層間に厳密な階層性が仮定できない)。

・成長欲求(自己実現の欲求)と欠乏欲求(生理的〜承認欲求)は質的相違があり、欠乏欲求が成長欲求の必要条件となる。

・成長欲求(真・善・美・躍動・個性、完全、必然・完成・正義・秩序・単純・豊富・楽しみ・無礙・自己充実・意味)は、すべて同等の重要さを持つ。


・基本的欲求充足の前提条件として、外的環境(自由・正義・秩序・挑戦(刺激)が必要である。


●原点からの新しい解釈による看護援助計画作成の充実

・例えば、入院患者の看護援助を計画する際、患者の生理的欲求だけでなく安全と安心の欲求も、所属と愛の欲求も、承認の欲求も。合わせて考えることができるようになるだろう。

・もう一つは、看護援助として外的環境=自由・正義・秩序と挑戦(刺激)を整えること、それを擁護することの重要性が強調されるであろう。


<所感>

・欠乏欲求の間には厳密な階層性は仮定できないとマズローが主張していたという論述にびっくりしました。

・今までは低次の欲求は100%ではないにしても70〜80%くらいは充足されなければ次の欲求への焦点移動は起こらないと理解していましたが、個性や環境によっては、30〜40%程度でも次の欲求が焦点になる場合があることは、決して例外ではないということがわかりました。

・また、成長欲求(自己実現の欲求)と欠乏欲求の間は質的相違があり、欠乏欲求は成長欲求の必要条件であるという命題と基本的欲求充足の前提条件として自由・正義・秩序・挑戦が必要であるという命題から、人間の精神的成長にとって良好な社会的環境が必要なことが理解できました。

・幸福な人生とは自己実現の欲求が充足されていく状態だと思われますので、自由で公正な環境の中で欠乏欲求を適度に充足した上で、真・全・美・躍動・個性、完全、必然・完成・正義・秩序・単純・豊富・楽しみ・無礙・自己充実・意味といった項目すべてを同等に追及・実現していくプロセスを歩むことだと思います。

・実は自己実現が十分に満たされると自己超越の欲求が生まれるようで、それは大乗仏教では菩薩の道なのだそうです。私は自己実現の欲求充足がまだ不十分なので菩薩の道はまだ初期の資料位の段階で、一部布施の初歩的試行・・・隣接の方への無財の七施無畏施を目指した接触を心がけていますが、まだまだ菩薩道の見学者です。

・また病気に罹ってから、身体の健康というものが精神の充足、発達の前提であるこも痛感しています。