参院選挙結果をめぐって印象に残った新聞記事

参院選挙結果をめぐって各新聞にはいろいろな評価や意見が述べられています。その中で、一番事態を鋭く観察しているなと感銘したのは、7月24日付けのウオールストリートジャーナル国内版のオピニオン欄に掲載されたトバイアス・ハリス氏の論述「安倍首相に与えられた虚弱な信任」でした。そのポイントを記録しておきます。

自民党と連立パートナーの公明党は、全242議席過半数である135議席を確保したことで、少なくとも向こう3年間の議会運営の主導権を握り、法案の成立をスムースにした。

・しかしこれはマスコミが大々的に報じているような地滑り的な圧勝とはかけ離れており、安倍首相は政権にとっての勝利宣言をする上で最低限の結果を残したに過ぎない。

自民党単独過半数には7議席届かず、公明党に影響力行使の余地を与えてしまった 改憲に賛成する党の議席数が憲法改正の発議に必要な参院の3分の2の162議席を大きく下回ったことも安倍首相にとってはショックだっただろう。・・・安倍首相は公明党とうまくやっていかなければならない。公明党は首相の焦点が経済成長と雇用という優先課題からぶれないようにしてくれるだろう。

・とはいえ、安倍首相には日本経済の復興を大きく前に進めるチャンスがある。もはや野党には、安倍首相が経済改革法案を成立させるのを阻止することなどできないのだ。

参院選挙が終わてしまった今、安倍首相が与党内の結束を維持するのは難しいかもしれない。自民党の重要な支持基盤が安倍首相のアジェンダのいくつかによて打撃を受けるとなればなおさらである。中でも大きかったのはTPP交渉への参加の決断である。
・・・安倍首相が克服しなければならないTPP反対派議員は与党内にさえ大勢いるのだ。

有権者アベノミクスを展開した安倍首相を評価し、自民党に票を投じた。しかし、
これから数か月の間に、党を分裂させることなくTPP交渉に参加し、2014年春に消費税を引き上げるかどうかを決め、8月に閣議決定された成長戦略を法案として成立させ規制改革をさらに推し進めるかどうかを判断しなければならなくなる。安倍首相はこのうちのどれでつまずいてもおかしくない。

民主党の内紛、日本共産党の反アベノミクス票吸い上げ、みんなの党の支持基盤拡大困難、日本維新の会の失速といった野党の混乱は、安倍首相の政策への熱狂的な支持と記録的に低い投票率の両方の原因になっているかもしれない。

・安倍首相が経済に専念し、参院選挙の結果を全面的な変革に対する信任と捉えたいという誘惑をはねのけることができたらーそして与党内の反対勢力を抑えつける勇気を見出すことができればー日本経済はついに持続的な成長を実現するかもしれない。

・そうでなくとも、自民党の獲得議席数が期待したほどではなかったので、安倍首相はアベノミクスだけに専念せざるを得ないかもしれない。

<所感>
・ハリス氏が、安倍政権を取り巻く促進条件と制約条件を総括的に捉え、そこから展開した今後の見通しは、かなり的確なように思えます。

・ハリス氏の、安倍政権が憲法改正原発再稼働問題で突進できる状態ではないという見立てが正しいかどうか、今後も注視しなければなりません。