加瀬俊一氏の「晩年の美学」より(2)

●人生が醸す色気
・心に余裕があるときって、ひとは(事柄が)よく見えるんです。学びとるべき対象がはっきり把握されていますから、本物に触れることができるんです。

・心が枯渇しているときは、それを埋めることだけで精一杯になっちゃう。そのものをよく見られないんですね。だからまがいものに触れてもわからない。まがいものの飾りに騙されちゃうのね。

・心の状態をいえば、自分の意志や素直な気持ちが働かずに、相手に迎合しているだけ。本質をみることができなくて、外見ばかり気にしているから、どうしたって見苦しくなる。

・もう若くないと感じた人ほど、自分のなかに自信を発見すべきなんですよ。また、それを自慢する必要もない。大事なことは、秘めたる誇り、矜持といった精神の状態だと思うの。自信のないことには謙虚になればいいと思うの。


●いつまでもロマンチスト
・男の人生は仕事だからね。中心は。家族のこと、友だちのこと、愛情の問題・・・いろいろあるけど、ほんとうの生き甲斐は仕事にあるんじゃない?私の場合は外交だった。その仕事に使命感を持って一生懸命やってきた。今はものを書いたり、大学で青年男女を相手に講義するのが仕事で、それを自然にやっているだけ。

・ただし、人間には仕事を離れた一面があって、それを無視することはできない。・・・寂しいからでしょうね(加瀬氏の奥さまはがんのためすでに亡くなられていた)。寂しさを感じたときには、本を読むのがいいですねえ。・・・私はね、トルストイの「復活」が好きです。カチューシャの恋物語でね、味わいの深い小説です。恋愛は、人類に共通しているものでしょうね。恋人を求める気持ちもそうだけど、友を求める気持ちもやっぱり人間の寂しさからくるものじゃないでしょうか。

・ロマンスというのは本来ありえないことをいうの。だからロマンスを追及するには、若さがなければだめなんでしょうね。それは精神的な意味での若さ。それと健康が欠かせない要素でしょう。


<所感>
・加瀬氏の語る言葉を読んでいくと、青年時代の気分に戻ったような気持ちになります。成人してからはまったく平凡な人生を送ってきましたが、自分も青春時代には加瀬氏と同じような気分があったんだなあと感慨無量です。それにしても90歳に近い加瀬氏が、こうした語りの本を出されたことに脱帽です。