加瀬俊一氏の「晩年の美学」を再読する

100歳を超えてから永眠された加瀬俊一氏の「晩年の美学」を再読しました。曽野綾子さんや五木寛之氏とは味わいの異なる内容で、再読してあらためて感銘しました。

・桜の花のあとに「葉桜」の美しさがあるように、やがてその葉が紅葉して輝くように、人の美しさの質を変えていかなくちゃいけない。

・悲しいときは悲しむことはしかたないが、なるべく後悔は少ないほうがいい。精一杯やっていれば結果はどうあれ納得できる。納得できればあきらめもつくというものです。「残灯期」の人生を芸術に高めたいと願っています。

・あまりに目的や願望ばかりに重きを置きすぎると思考の幅を狭めちゃうんですよ。心のゆとりとは、選択すべき道をたくさんつくっておくことです。この道がだめならあの道を選ぶ。そうすれば思いつめることもなくてすむでしょう。ただし逃げ道をつくってぐうたらに生きるのとは違う。

・意志のある人には苦労や苦悩があるものなんです。年をとっても好奇心と情熱を失って生きるより、私なら苦悩を伴うほうを選びたいですね。最後まで「現役」を貫いていきるためには、苦労や苦悩と向き合わざるをえないのね。

・「若さ」ということをひとことで説明するのはむつかしいですけれどね、わたしの考えでは「美を追及する気持ち」だと思う。その気持ちが心を若くするし、肉体的にも若さを保つことになるんですよ。

・頑固にならない。嫌われるお年寄りにならないためには、若いうちから将来もずっと続けられる「何か」をもっている必要があるんですよ。自信があれば素直になれるし、あるがままの自分で生きていける。そうすれば頑固になる必要がなくなっちゃうからね。

・現在を生きているとね、過去のことだけが浮かんでくることはないの。つまり話題は現役。なすべきことをなしとげたとき、残灯の炎が静かに燃え尽きれば、それが理想。

(つづく)

<所感>
・戦中戦後の代表的外交官として、ルーズベルトケネディチャーチルスターリンヒットラー、ネール、周恩来などにじかに接触した加瀬俊一氏が90歳のときに書いた「晩年の美学」は、五木寛之氏とは対照的な香りのある内容でした。
加瀬俊一氏は101歳まで生きられたようで、その晩年の生きざまにあらためて魅力を感じました。